天秤で化学を変えた男:ラヴォアジエと酸素の名付け、そしてギロチン
ラヴォアジエ(1743–1794)は反応を精密に量って質量保存を示し、酸素と名付けて燃焼の謎を解いた化学者。徴税請負人だったため革命で処刑されました。
アントワーヌ・ラヴォアジエ(1743–1794)は、密閉した容器の中では化学反応の前後で物質の質量の合計が変わらないことを精密な計量で示し、今でいう質量保存の法則を裏づけた人です。さらに、ものが燃えるのは空気の一部と結びつくからだと説明し、その成分を1778年に「酸素」と名付けました。 水素を元素と認め、メートル法づくりに関わり、化学物質の名前のつけ方も改革しました。 化学を「記述の学問」から「測定の学問」へ変えたことが最大の功績とされています。 ところが、その彼は王のために税を集める裕福な貴族でもあり、フランス革命のさなかにギロチンで処刑されました。
法律家ではなく実験室を選んだ青年
ラヴォアジエは1743年8月26日、パリの裕福な貴族の家に生まれ、5歳で母を亡くして大きな財産を相続しました。 マザラン学院で化学・植物学・天文学・数学を学び、法律の学位を取って弁護士資格も得ましたが、法律家として働くことはなく、余暇に科学を続けました。 1766年にはパリの街灯の改善に関する論文で国王から金メダルを受け、きれいな水をパリへ引く計画や病院の換気にも取り組んでいます。 科学を社会のための道具と考えていたことがよくわかります。
徴税請負人と、研究の相棒
26歳ごろ、彼は徴税請負会社フェルム・ジェネラルの出資者になりました。王政府に税収を前払いし、その代わりに自分たちで税を取り立てる会社で、利益の大きさや秘密の契約、武装した取り立て人のせいで旧体制の中でも特に嫌われていました。 しかし、その収入が彼の研究を支えていたのです。
1771年には、同じ会社の幹部の娘で13歳のマリー=アンヌ・ポールズと結婚しました。 彼女は英語の科学文献を翻訳し、実験を手伝い、器具の精密な図や版画を描き、のちに夫の回想録を編集するなど、研究の本当の相棒になりました。
天秤はうそをつかない
暖炉で薪を燃やすと、重い木が少しの灰になります。物が消えてしまったように見えますが、ラヴォアジエの答えは「消えていない、気体になって出ていっただけ」でした。彼は気体が逃げないよう密閉したガラス容器の中で反応前と反応後の物質を量り、1774年に、反応の後の質量の合計は最初と同じだと示しました。 木が灰になっても、気体まで数に入れれば全体の質量は変わらないのです。
フランスではこれを「ラヴォアジエの法則」と呼び、「何も失われず、何も生まれず、すべては変化する」という言葉で覚えます。 似た考えはそれ以前にジャン・レーやロモノーソフも述べており、この法則はレーが示し、ラヴォアジエが最終的に確かめたものと説明されます。 彼が加えたのは、正確な測定と、それに基づく一つの理論体系でした。化学の授業で反応式の左右をそろえるのは、この考え方の延長線上にあります。
フロギストンから酸素へ
当時の化学者の多くは、燃えるものの中には「フロギストン」という火のような物質があり、燃えるとそれが出ていくと考えていました。 ところが、加熱すると逆に重くなる物質があるという不都合な事実がありました。
1772年、ラヴォアジエはリンや硫黄が燃えると重くなることを確かめ、空気から何かを取り込んでいると考えました。 1774年にはイギリスの化学者プリーストリーがパリを訪れ、赤い水銀化合物を熱して得た、ものが激しく燃える気体の話をしました。 ラヴォアジエは実験を重ね、空気は燃焼と呼吸を支える気体と、どちらも支えない気体の混合物だと結論します。 そして1778年、前者をギリシア語で「酸を作るもの」を意味する言葉から「酸素」と名付けました。すべての酸に含まれると考えたからですが、これは後に誤りとわかりました。 1783年にはラプラスとともに水素と酸素を燃やして水を作り、水は二千年以上信じられてきたような元素ではなく、二つの気体の化合物だと主張しました。
名前にルールを
1787年、ラヴォアジエは仲間たちと新しい化学命名法を発表しました。土・空気・火・水の四元素説を捨て、それ以上分解できない約33の物質を元素として並べたのです。 古い呼び名「ヴィーナスのビトリオール」は「硫酸銅」になりました。 語尾のルールがわかると単語の仲間が一気に読めるようになる、語学学習者にはなじみのある感覚です。
革命の中の死
革命が進むと、彼の徴税の仕事は命取りになりました。1793年11月に元徴税請負人全員の逮捕が命じられ、国家をだました罪やタバコに水を混ぜた罪に問われます。 1794年5月8日、50歳でほかの被告とともにパリでギロチンにかけられました。 裁判官が「共和国に学者は要らない」と言ったという話は、民間の伝説とされています。 数学者ラグランジュは「この頭を落とすのは一瞬だったが、同じような頭を生むには百年でも足りないかもしれない」と嘆きました。 約1年半後、フランス政府は彼の名誉を回復しています。
天秤を化学の標準の道具にし、酸素でフロギストン説を倒し、新しい命名法を残したラヴォアジエの仕事は、18世紀の化学を物理学や数学と同じ水準へ引き上げた最も重要な一歩とされています。
ラヴォアジエで学ぶ日本語表現
| 表現 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 天秤にかける | 二つを比べて考える | 研究と仕事を天秤にかけた。 |
| 水の泡になる | 努力が無駄になる | 水道の計画は水の泡になった。 |
| 新風を吹き込む | 新しい考えを持ち込む | 彼は化学に新風を吹き込んだ。 |
| 濡れ衣を着せられる | 無実の罪を負わされる | 彼は濡れ衣を着せられた。 |
| 名誉を回復する | 失った評判を取り戻す | 死後、彼は名誉を回復した。 |
練習:「天秤にかける」と「新風を吹き込む」を使って、最近の大きな決断について日本語で三文書いてみましょう。