『オリバー・ツイスト』とおかゆの場面:ディケンズが描いた孤児、フェイギンの一味、ヴィクトリア朝のロンドン
『オリバー・ツイスト』は、救貧院から逃げてロンドンの少年スリ団に入りこむ孤児を描いたディケンズの小説(1837–39年)です。あらすじと社会批判、評価を紹介します。
『オリバー・ツイスト』は、チャールズ・ディケンズの2作目の長編で、1837年から1839年まで月刊誌に連載されました。救貧院で虐げられた孤児オリバーがロンドンへ逃げ、悪党フェイギンの率いる少年スリ団に入りこみ、最後に自分の家族の真実を知る物語です。 児童労働、家庭内暴力、子どもを犯罪に引きこむこと、貧しい孤児へのひどい扱いを批判した、初期の「社会小説」の一つとされています。
月刊連載の物語
小説は1837年2月から1839年4月まで雑誌『ベントリーズ・ミセラニー』に連載され、1838年に3巻本として出版されました。 読者は今の連続ドラマのように、毎月オリバーの運命を追いかけました。ディケンズはまだ20代半ばで、この作品の成功が彼を時代いちばんの人気作家に押し上げました。
挿絵と副題「教区の少年の遍歴」
この小説は、もともとディケンズの連載『マッドフォッグ・ペーパーズ』の一部になるはずのものでした。 連載では画家ジョージ・クルックシャンクが毎月一枚の鋼版画を描き、単行本には24枚の挿絵が収められました。 1838年の3巻本は連載が終わる半年前に出版され、作者名は本名ではなく「ボズ」というペンネームでした。 副題の「教区の少年の遍歴」は、バニヤンの『天路歴程』や、18世紀の画家ホガースの連作版画『放蕩者の遍歴』『娼婦の遍歴』を意識したものです。
新救貧法への批判
作品の背景には、1834年の救貧法改正法で始まった厳しい新しい救貧制度がありました。小説はこの制度を強く批判しています。 1830年代には、綿紡績工場での児童労働を語ったロバート・ブリンコーの手記が広く読まれており、これが小説の着想の一つになったとも考えられています。 当時の書評では、ジョン・フォースターや『リテラリー・ガゼット』誌が作品の写実性をほめる一方、リチャード・フォードのように、描かれた貧しさは大げさだと考える批評家もいました。
「お願いです、もう少しください」
オリバーはロンドンから約70マイルはなれた町の救貧院で生まれます。子どもたちはほとんど食べさせてもらえず、何か月も飢えたすえ、くじで負けた者がおかわりを頼みに行くことになり、オリバーが負けます。 おかゆのおかわりを頼んだオリバーに大人たちは仰天し、彼は閉じこめられ、教区吏バンブル氏にむち打たれ、引き取り手があればだれにでも徒弟として出されることになります。この短い場面は英文学で最も有名な場面の一つで、必要なものを求める勇気の象徴として今も語られます。
フェイギンの世界へ
葬儀屋の徒弟としてみじめな日々を送ったあと、オリバーはロンドンへ逃げます。そこで「アートフル・ドジャー(すばしこいドジャー)」と名のる少年に出会い、食べ物と寝床を世話されて、孤児たちにスリを仕込む悪党フェイギンのもとへ連れていかれます。 少年たちが紳士のハンカチを盗むのを見て、オリバーはやっと事情をのみこみます。疑われて捕まりますが、被害者のやさしいブラウンロー氏に引き取られます。
ナンシー、サイクス、そして真実
一味の秘密がもれるのを恐れたフェイギンは、仲間の若い女性ナンシーと、その乱暴な恋人で強盗のビル・サイクスにオリバーを連れもどさせます。 強盗に加わらされたオリバーは撃たれて傷を負い、親切なメイリー家に助けられます。そのころ、モンクスという謎の男がフェイギンと組んで、オリバーが自分の過去を知らないようにたくらんでいました。オリバーを思うナンシーはひそかにブラウンロー氏とローズ・メイリーに会って助けようとしますが、それを知ったサイクスに殺されてしまいます。 最後に、モンクスは遺産を奪おうとしていたオリバーの異母兄だとわかり、フェイギンは捕らえられて処刑され、サイクスは逃げる途中で命を落とし、オリバーはブラウンロー氏の養子になります。
むずかしい登場人物
フェイギンは長く、反ユダヤ的な固定観念の人物像だと批判されてきました。ディケンズは最初の38章で彼を274回も「ユダヤ人」と呼んでいます。 今の読者や映像化では、作品と時代を理解するうえでこの点が率直に語られることも多くなっています。1948年の映画や、1968年にアカデミー賞をとった映画にもなったミュージカル『オリバー!』など、何度も映像化されています。
批判に応えたディケンズ
フェイギンの描き方への批判は、ディケンズの生前からありました。1854年、ユダヤ人向けの新聞『ジューイッシュ・クロニクル』は、虐げられた人々に寄せるディケンズの共感から、なぜユダヤ人だけが外されているのかと問いかけています。 1860年にディケンズの家を買った人物の妻イライザ・デイヴィスもフェイギンの描写に抗議し、ディケンズは印刷を止めて、まだ組まれていなかった部分の文章を改めました。 フェイギンのモデルは、ユダヤ人の犯罪者アイキー・ソロモンだったと広く考えられています。
舞台、無声映画、アニメへ
物語は連載中からほかの形に広がりました。1838年には早くも、チャールズ・ザカリー・バーネットによる3幕の喜歌劇がロンドンのメリルボーン劇場で上演されています。 最初の映画は1909年の無声映画で、エディス・ストーリーが主演しました。 1988年にはディズニーがアニメ『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』を作り、2021年にはマイケル・ケインがフェイギンを演じる現代版の映画『ツイスト』も公開されました。
オリバー・ツイストで覚える英語表現
| 表現 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| please, sir, I want some more | おかわりください(冗談で) | Please, sir, I want some more cake! |
| an artful dodger | 要領よく逃げる人 | He's an artful dodger. |
| a workhouse | 救貧院(歴史) | Many orphans grew up in a workhouse. |
| fall in with a bad crowd | 悪い仲間とつるむ | He fell in with a bad crowd. |
| rags to riches | 貧乏から成功へ | It's a rags-to-riches story. |
練習問題: 何かを「もう少し」ほしいと頼んだ経験を、「fall in with」か「rags to riches」を使って英語で三文書いてみましょう。