千夜一夜物語とは?シェヘラザードの枠物語と「千一夜」の成り立ちを年表でたどる

千夜一夜物語は、ペルシャの王に毎夜妻が物語を語る形式のイスラム世界の説話集。枠物語、成立の年表、ガラン写本、版ごとに違う結末を整理し、三文でまとめる練習問題も付けた。

千夜一夜物語とは何か

千夜一夜物語は、ペルシャの王に毎夜妻が物語を語る形式を取る、イスラム世界の説話集です。日本では千夜一夜物語、アラビアンナイト、千一夜物語の名称で知られています。フランスでは1704年に「千一夜」として出版されました。1706年にはイングランドで英語版「アラビアンナイト・エンターテイメント」が出版されています。この記事では、まず枠の仕組みを確認し、そのあとで成り立ちと版の違いを年表で整理します。

物語の枠はこうです。枠物語では、王シャフリヤールは毎夜シェヘラザードの話を聞き、彼女は約1000日にわたり生き延びます。数字や言い回しは資料ごとに少し違うので、ここでは資料の書き方をそのまま写しています。

作品の性格にも触れておきます。物語は中世イスラム世界の一般庶民の生活を知る資料としても評価されています。ハールーン・アッ=ラシードやアブー・ヌワースなど、実在した人物が登場します。もう一つの資料は、この作品をイラン黄金時代にアラビア語で編纂された中東の民話集と説明しています。おとぎ話として読むだけでなく、史料としての顔も持つ点が、この作品を調べる面白さです。

元になった物語と成立の道のり

サーサーン朝時代に中世ペルシャ語で記された「ハザール・アフサーナ」(千の物語)が、物語の元になったとされます。651年にサーサーン朝はイスラム教徒に征服されました。9世紀にはアラビア語版の原型ができたとされます。ペルシャ語の「千の物語」からアラビア語の原型へという流れを、年の順に押さえておきましょう。

750年にはアッバース朝の時代となり、新都バグダードが整備され始めます。原型は9〜10世紀のバグダードで作られ、15世紀頃のカイロで最終的な形にまとめられたと推定されています。12世紀頃のカイロの貸本屋の記録には、「千一夜」の題名が見られます。バグダードとカイロという二つの都市名が出てくるので、年表には場所も書き添えると整理しやすくなります。

ここで言葉の強さに注意しましょう。「元になったとされる」「原型ができたとされる」「推定されている」は、いずれも断定しない書き方です。現存する最古の写本とされるガラン写本は、15世紀半ばに書かれたとされます。年表に写すときは、この断定しない言い方も一緒に写すと、資料の温度が正確に伝わります。

ガラン写本とヨーロッパでの広がり

1704年、アントワーヌ・ガランがフランス語版「千一夜」第一巻を出版しました。これが、冒頭で触れたフランスでの出版にあたります。ガラン写本は282夜で、結末がありません。千一夜という題名と、写本の282夜という数字を見比べると、題名と写本のあいだに差があることに気づきます。

アラジンと魔法のランプやアリババと40人の盗賊などは、元のアラビア語写本にはなかった話です。1706年にはイングランドで英語版「アラビアンナイト・エンターテイメント」が出版されました。よく知られた話が写本になかったという事実は、「原作とは何か」を考えさせます。読者がよく知る話と写本にある話を分けて書き留めておくと、混乱しません。

日本では1875年(明治8年)に初めて翻訳されました。1984年にはムフシン・マフディーの研究による校訂版が出され、本来の千一夜を知る最良のものと評価されています。ヨーロッパでの出版が1704年と1706年、日本での最初の翻訳が1875年と、年だけでも広がりの順序が見えてきます。校訂版が出た1984年も、年表に加えたい項目です。

結末はなぜ一つではないのか

王の悪習を止めさせるという結末は、後世のヨーロッパ人が追加したものです。一方で、結末は版によって異なり、王がシェヘラザードを許す場面がある版も含め、多様な結末が存在します。この二つを並べると、「物語はこう終わる」と一言で言い切れない作品だと分かります。結末を語るときは、どの版の話かを添えるのが安全です。

元の写本は、一つの決まった話の順序を持つ正典が現存しないとされます。ガラン写本は、282夜で結末がない写本でした。この二点を重ねると、順序も結末も一つに決まっていない作品だと整理できます。だからこそ、版や校訂という言葉が何度も出てくるのです。

練習問題:枠物語を三文で書いてみる

問題です。ここまでに確認した事実だけを使って、この作品の枠の仕組みを三文で書いてみてください。素材は、毎夜語られること、語り手と聞き手、そして生き延びる日数です。以下は編集部が作った例で、作品中の言葉でも実際の発言でもありません。

  1. 王シャフリヤールは毎夜シェヘラザードの話を聞く。
  2. 彼女は一夜に一つの話を語る。
  3. 彼女は約1000日にわたり生き延びる。

解説です。例の各文は、資料の記述一つだけに対応させています。「その結果」のような因果の言葉を足さないのは、資料が書いていない関係を作らないためです。「約」を残せば、日数が資料の書き方に沿ったものだと示せます。この三点を守ると、短い文でも事実がずれません。

読み終えたあとに試したいこと

次の作業を、紙でもノートでも、手元の方法で試してみてください。年表を自分で作り、651年、9世紀、12世紀頃、15世紀半ば、1704年、1706年、1875年、1984年を出来事ごとに書き分けます。ガラン写本と後から加えられた話を、二列の表にまとめるのもよい方法です。表の一行ごとに、どの資料に書いてあったかを書き添えると、あとで見返しやすくなります。

もう一つは「原型」「追加」「後世」の使い分けです。たとえば、アラジンの話は元のアラビア語写本になかったと書き、王の悪習を止める結末は後世のヨーロッパ人が追加したと書き分けてみましょう。同じ「追加」でも、話の追加と結末の追加は別の事実として記録します。最後に、結末が版によって異なることも一行添えてみてください。

この人物で外国語を学ぶ

テーマ別に読む