レンブラント『夜警』はなぜ有名なのか?実は夜の絵ではなかった名画の秘密
アムステルダム国立美術館の至宝、レンブラントの『夜警』。夜の場面に見えた理由、画面の中の少女の正体、切り取られた絵や刃物での襲撃まで解説します。
『夜警』が有名なのは、主に三つの理由からです。縦363cm×横437cmという巨大さ、光と影の効果的な使い方、そして当時は直立不動の姿で描くのが普通だった自警団の集団肖像画に、動きを持ち込んだことです。 17世紀オランダの画家レンブラントの作品で、現在はアムステルダム国立美術館に展示され、レンブラントとオランダ黄金時代の絵画を代表する作品とされています。 ところがこの絵、実は夜の場面ではありません。
「夜警」は誤解から生まれた題名
『夜警』という通称は18世紀以降に使われるようになったもので、より正確な題名は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊』です。 長いあいだ内容に合った題だと思われてきましたが、それは絵の表面が茶色く変色していたための誤解で、本当は昼の情景を描いています。 暗いニスが何層にも塗られていたため夜の場面に見え、それが今の呼び名につながりました。ニスが取り除かれたのは1940年代になってからです。
バニング・コック家に残されていた下絵には、「隊長の若きプルメレント領主が、副隊長のフラールディンゲン領主に市民隊の行進を命じる」という説明が添えられていました。 絵が描いているのは、夜の見回りではなく、昼に部隊が出動する瞬間なのです。
絵の中で何が起きているのか
画面の中央では、黒い服に隊長の印である赤い飾り帯をかけたバニング・コック隊長と、黄色い服の副隊長が部隊を率いて動き出そうとしています。そのまわりでは隊員が銃に火薬を詰めたり構えたりし、鼓手が太鼓を構え、後ろでは旗手が隊旗を掲げています。 足元では犬がほえ、左では少年が走り回っています。隊員たちはそれぞれ違う方向を向き、全身が描かれているのはわずか3人だけです。
レンブラントは明暗法を使い、斜め上から差し込む強い光で、中央の隊長と副隊長、そして左奥の少女の3人を浮かび上がらせました。 全員を同じ明るさで並べる当時の集団肖像画と比べると、まるで舞台のワンシーンのような迫力です。
光る少女の正体
見る人が必ず気になるのが、男たちの間で光を浴びている小さな少女です。彼女はベルトに死んだ鶏をぶら下げています。この少女の姿には、火縄銃手組合の伝統的な紋章と宴会用の角杯が織り込まれており、レンブラントは組合の象徴を少女の姿でさりげなく描き込んだのです。
注文と報酬
この絵は1639年ごろ、バニング・コック隊長と17人の隊員が注文したものです。画面には全部で34人が描かれ、雇われた鼓手は無料で描き加えられました。 レンブラントの報酬は1,600ギルダーで、一人あたり約100ギルダーという当時としては大きな金額でした。 絵が大きすぎてアトリエに入らなかったため、自宅の庭の小屋で仕上げたと考えられています。
切り取られた『夜警』
1715年、絵はアムステルダムの市庁舎に移され、そのとき四辺が切り詰められました。2本の柱の間に収めるためだったとみられています。 この結果、左側の2人の人物、アーチの上部、手すり、階段の端が失われ、その部分はいまも見つかっていません。17世紀に画家ヘリット・ルンデンスが描いた模写が、もとの構図を伝えています。 2021年には、この模写をもとに人工知能で失われた部分を再現した展示も行われました。
戦争と襲撃をくぐり抜けて
第二次世界大戦が始まった1939年9月、絵は枠から外されて筒に巻かれ、マーストリヒトの洞窟にある特別な金庫で4年間守られました。 その後も、1975年にはパン切りナイフで最大30センチのジグザグの切り傷をつけられ、修復に4年かかりました。1990年には酸をかけられましたが、ニスの層で止まり、完全に修復されています。
2019年からは「オペレーション・ナイトウォッチ」と呼ばれる大規模な調査と修復が、美術館の中のガラス張りの部屋で公開のまま行われ、ネットでも中継されました。 2020年には528枚の写真をつなげた448億画素の画像も公開され、誰でも筆の跡まで拡大して見られるようになりました。
修復でわかった新しい事実
公開修復の調査では、これまで歴史的な油絵では確認されていなかった「ギ酸鉛」という化合物が絵の具の層から見つかり、レンブラントが使った材料について新しい手がかりが得られました。 また学芸員は、画面の犬が画家アドリアーン・ファン・デ・フェンネの挿絵をもとに描かれたらしいことに気づき、X線による分析でも二匹の犬の共通点が確かめられました。 400年近く前の絵から、今も新しい発見が続いているのです。
どれほど有名なのか
『夜警』はもともと、アムステルダムに新しく建てられた火縄銃手組合の集会所の宴会場に飾るために描かれ、レンブラントの作品を含め、同じような市民隊の絵が7点、さまざまな画家に注文されていました。 その中でレンブラントの一枚だけが、ずば抜けた名声を得ました。映画監督ピーター・グリーナウェイは、『モナ・リザ』『最後の晩餐』、システィーナ礼拝堂の天井画に次いで、西洋で4番目に有名な絵だと述べています。 作曲家マーラーの交響曲第7番の第2楽章も、この絵から着想を得たといわれます。 地元の市民隊の記念写真のような絵が、ここまで世界中の人を引きつけているのは驚きです。
『夜警』で覚える日本語表現
| 表現 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 脚光を浴びる | 注目の的になる | 画面の少女が脚光を浴びている。 |
| 名ばかり | 名前と中身が合わない | 「夜警」は名ばかりで、実は昼の絵だ。 |
| 日の目を見る | 隠れていたものが世に出る | 修復で新しい発見が日の目を見た。 |
| 圧倒される | 力や大きさに押される | 実物の大きさに圧倒された。 |
| 一歩踏み出す | 新しく行動を始める | 隊長が一歩踏み出そうとしている。 |
練習問題: 好きな絵や写真について、「脚光を浴びる」と「圧倒される」を使って三文書いてみましょう。