イソップ寓話の正体:イソップはどんな人?物語はどう世界に広まった?

イソップ寓話は、教訓で終わる短い動物の物語で、紀元前6世紀ギリシャの語り手の作とされます。イソップの実像、物語が日本や中国に伝わった経緯、有名な教訓を紹介します。

イソップ寓話は、人間のように話したりふるまったりする動物たちが登場し、最後に教訓が示される短い物語の集まりです。紀元前620年ごろから前564年ごろに生きたと伝えられるギリシャの語り手イソップ(アイソーポス)の作とされますが、もとは口伝えで広まり、本にまとめられたのは彼の死からおよそ300年後のことでした。 「ウサギとカメ」や「オオカミ少年」など、今も世界中の子どもたちに語られ、その教訓は日常のことわざになっています。

イソップは実在したのか

確かなことはわかっていません。ヘロドトス、アリストテレス、プルタルコスといった古代の著述家がイソップに触れており、ヘロドトスは「寓話作家イソップ」と呼び、奴隷だったと書いています。 それでも現代の研究者の中には、実在の人物だったかどうかは「まったく確かではない」と書く人もいます。 私たちが知っているイソップ像の多くは、古代の、おそらくかなり創作の入った伝記『イソップ物語(イソップ伝)』から来ています。そこでのイソップはサモス島のひどく醜い奴隷で、はじめは口がきけませんでしたが、女神から言葉と物語の才能を授かり、機知で主人や権力者を出し抜きます。

主人たちとデルポイでの最期

古代の伝えによれば、イソップには二人の主人がいました。アリストテレスとヘロドトスは、最初の主人をクサントス、二人目をイアドモンとしています。 サモス島の裕福な人物の弁護に立ったという話もあるので、いずれは奴隷の身分から解放されたはずだと考えられています。 最期についてはプルタルコスが伝えています。それによると、イソップはデルポイで神殿の物を盗んだというぬれぎぬを着せられて死刑を言い渡され、崖から突き落とされました。その後、デルポイの人々は疫病と飢饉に苦しんだといいます。 伝説では、イソップはリュディア王クロイソスの使者としてデルポイに行き、サルディスで知り合った友人のソロンと並んで座ったともされます。研究者ベン・エドウィン・ペリーは1965年にこれを「文学的な作り話」と呼びましたが、のちの研究では、使節の話はイソップが亡くなった年と矛盾しないとも指摘されています。

哲学者と詩人が語ったイソップ

イソップの物語は古代の知識人にも愛されました。プラトンの『パイドン』によれば、ソクラテスは処刑を待つ牢獄の中で、いくつかの寓話を韻文に直していました。 古代の資料には、彫刻家アリストデモスやリュシッポスがイソップの像を作ったという記録もありますが、どれも残っていません。 紀元前3世紀の詩人ポセイディッポスは、今は失われた詩の中で、ロドピスという女性をイソップの仲間の奴隷として登場させました。 13世紀のビザンツの学者プラヌデスは、イソップはエチオピアの出身だという説を初めて唱えましたが、名前の語源の説明としては正しくないとされています。

口伝えから本へ、そして日本へ

寓話は口伝えの伝統として始まり、まとめられたころには、イソップより古い話やギリシャの外から来た話、冗談やことわざまでが彼の名前に結びつけられていました。 知られている最初の寓話集は、紀元前4世紀にデメトリオス・ファレレウスが作ったものです。1世紀にはローマ皇帝アウグストゥスの解放奴隷パエドルスがラテン語の詩にし、ギリシャの詩人バブリオスも独自の版を作りました。

印刷術が広まると、イソップ寓話集は多くの言語で最初期の本の一つになりました。日本には16世紀末にポルトガルの宣教師が伝え、1593年にローマ字で書かれた日本語版『エソポのハブラス』が印刷されました。その後、仮名草子の『伊曽保物語』も生まれています。中国では1625年、イエズス会士ニコラ・トリゴーが口で伝えた38話を学者の張賡が書き留めました。

宮殿の庭と絵画の中のイソップ

時代が下っても、イソップは芸術の題材であり続けました。スペインの画家ベラスケスは1639年から1640年ごろにイソップの肖像を描き、この絵は今マドリードのプラド美術館にあります。 フランスのヴェルサイユ宮殿の庭には1677年に迷路が完成し、イソップ寓話の場面を表した39の噴水が置かれました。迷路は1778年に取り壊されましたが、彫刻家ピエール・ル・グロが作ったイソップの像は残っています。 イギリスでは1697年、劇作家ヴァンブラの喜劇『イソップ』がロンドンのドルリー・レーン劇場で初演され、およそ20年にわたって上演されました。

寓話の特徴

古代の著述家は、よい寓話とは短く素直で、はっきり作り話とわかり、生活に役立ち、人間の本性に忠実なものだと考えました。 キツネはずる賢く、ライオンは強く、アリは働き者というように、動物が人間のタイプを表します。登場人物が単純なので、教訓がわかりやすく覚えやすいのです。

有名な寓話と教訓

  • ウサギとカメ:足は速いが油断したウサギが居眠りし、のろくても着実なカメに負けます。
  • オオカミ少年(羊飼いの少年):うそを重ねた少年は、本当にオオカミが来たときに信じてもらえません。
  • キツネとブドウ:届かないブドウを「どうせすっぱい」と決めつけるキツネ。英語の「sour grapes(負け惜しみ)」の由来です。
  • アリとキリギリス:夏に働いたアリと、歌っていたキリギリス。冬に困るのはキリギリスです。
  • 金の卵を産むガチョウ:欲ばった飼い主が一度に金を手に入れようとガチョウを殺し、すべてを失います。

イソップで覚える英語表現

表現 意味 例文
sour grapes 負け惜しみ That's just sour grapes.
cry wolf うその警報を出す Don't cry wolf too often.
slow and steady wins the race 急がば回れ Slow and steady wins the race.
kill the goose that lays the golden eggs 欲ばって元も子もなくす Don't kill the goose.
the lion's share いちばん大きな取り分 He took the lion's share.

練習問題: 自分の習慣について、「slow and steady wins the race」「sour grapes」を使って英語で三文書いてみましょう。

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