『春香伝』とは:韓国でいちばん有名な恋物語のあらすじとパンソリ
『春香伝』は、元妓生の娘・春香と府使の息子・李夢龍の恋を描いた韓国で最も有名な恋物語です。あらすじ、登場人物、もとになったパンソリを紹介します。
『春香伝(チュニャンジョン)』は、韓国で最もよく知られた恋物語・民話の一つです。元妓生(キーセン)の娘・春香と、地方長官の息子・李夢龍(イ・モンニョン)がひそかに結ばれ、離ればなれになり、春香が悪徳役人に屈しなかったすえに再会する物語です。 今も演じられている五つのパンソリのうち、最も有名な『春香歌』がもとになっています。
だれが作ったのか
作者は不明です。多くの古典小説と同じく、作者も正確な成立年もわかっておらず、17世紀末から19世紀初めにかけて今の形になりました。 暗行御史の話や、役人が庶民の娘を奪う話など、いくつもの古い説話がパンソリ『春香歌』にまとまり、その詞章が小説として書き留められたと考えられています。 そのため版が多く、ソウルの京板本と、より長い全州の完板本がよく知られています。
登場人物
「春の香り」という名の成春香は、元妓生・月梅の娘で、美しく詩や芸事にすぐれています。李夢龍は南原の府使の息子で、頭がよく美男子。香丹は春香に尽くす侍女、房子は夢龍のちゃっかり者の従者、卞学道は夢龍の父の後任として来る強欲な役人です。
あらすじ
ある春の日、勉強に疲れて外に出た李夢龍は、ブランコに乗る春香を見てひと目で恋に落ちます。房子に呼びに行かせても春香は来ません。そこで母の月梅に結婚の許しを求めると、月梅は承知し、二人はその日のうちに結ばれます。
まもなく夢龍の父は漢陽(今のソウル)へ移ることになり、夢龍もついていかなければなりません。春香は愛のしるしに指輪を渡し、操を守って待つと約束します。新しく来た府使・卞学道は春香に仕えるよう命じ、すでに結婚していると断られると、彼女をむち打って牢に入れます。
一方、夢龍は科挙に首席で合格し、王の命で悪徳役人を取りしまる「暗行御史」になります。物乞いに変装して南原に戻った彼は、すべてを知ります。 卞学道の誕生祝いの宴にのりこみ、強欲を皮肉る詩を詠み、正体を明かして罰を下します。それでも春香の心を試すと、まだ夢龍だと気づかない春香はきっぱり断ります。感動した夢龍が名のり、二人はついに再会します。
なぜ愛されてきたのか
恋と笑いと正義が一つになっているからです。身分の違いをこえる恋や、強欲な役人が英雄にこらしめられる場面に、庶民は胸のすく思いをしたことでしょう。 宴の席に暗行御史が「暗行御史出道(チュルト)!」の声とともに現れる場面は、韓国の物語で最も有名な見せ場の一つです。房子のおどけたやりとりや、母・月梅のぼやきなど、パンソリから受けついだ笑いも大きな魅力です。春香の貞節は、当時重んじられた道徳観も映しています。今も映画やドラマ、舞台に何度も作り直され、韓国ではだれもが知る物語になっています。
パンソリという語り物
パンソリは、歌い手一人と、プクという太鼓をたたく鼓手(コス)で演じる韓国の語り物音楽で、全編を演じると何時間にもなります。 もとは十二の演目がありましたが、今も演じられるのは五つだけで、『春香歌』はその一つです。2003年にはユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作」に選ばれました。
1694年から1834年のあいだに
英語版ウィキペディアは、『春香伝』の今の形ができあがった時期を1694年から1834年のあいだとしています。 韓国語版では、朝鮮の英祖・正祖の時代に生まれ、開化期を経て今の形になったと推測されており、物語の冒頭は粛宗が王位についたばかりのころという設定になっています。 百年以上の幅があるのは、決まった作者が一度に書いた作品ではなく、語り手や聞き手のあいだで少しずつ形を変えながら育っていった物語だからです。どの時代の人々も、自分たちの笑いや怒りをこの物語に少しずつ書き足してきたといえるでしょう。
数えきれないほどの版
そのため『春香伝』には、驚くほど多くの版があります。韓国語版ウィキペディアによれば、木版で刷られた版が4種、手書きの写本が約20種、近代の活字本が50種あまり、翻訳本も6種から7種あるとされています。 漢文に訓点をつけた『懸吐漢文春香伝』は1917年と1923年に発表されました。 研究の面では、1957年に李家源と趙潤済が完板本の注釈本を出し、1958年には具滋均が京板本に注釈をつけています。 同じ名前の物語でも、版によって場面の長さやせりふ、笑いの量がかなり違うので、読み比べてみるのも楽しみ方の一つです。
舞台・オペラ・マンガへ
20世紀になると、『春香伝』は新しい舞台芸術の題材になりました。1946年1月には、唱劇『大春香伝』が国劇社の旗揚げ公演として上演されています。 オペラでは1949年の玄済明の作品をはじめ、1966年の張一男、1986年の朴俊相、1993年の金東振と、何人もの作曲家が取り組みました。1968年には金熙祚の作曲でミュージカル『大春香伝』も作られています。 北朝鮮でも1948年に李冕相の歌劇『春香』、1988年に民族歌劇『春香伝』が作られ、日本では1947年に高木東六がオペラ『春香伝』を作曲しました。 さらに1992年にはCLAMPのマンガ『新春香伝』が発表され、2005年にはKBS第2テレビのドラマ『快傑春香』が放送されています。 日本のマンガ家が描いた春香を通して、この物語を知った人もいるかもしれません。国境や時代、表現の形が変わっても、愛と正義の物語は何度でも新しく語り直されているのです。
春香伝で覚える韓国語
| 韓国語 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 첫눈에 반하다 | ひと目ぼれする | 그는 그녀에게 첫눈에 반했다. |
| 암행어사 | 暗行御史 | 암행어사가 나타났다! |
| 기다리다 | 待つ | 춘향은 몽룡을 기다렸다. |
| 약속을 지키다 | 約束を守る | 그녀는 약속을 지켰다. |
| 그네 | ブランコ | 춘향이 그네를 탔다. |
練習問題: 待っていた人について、「기다리다」「약속을 지키다」を使って韓国語で三文書いてみましょう。