夏目漱石『こころ』のあらすじを上・中・下で解説|先生の遺書とKの秘密、先生はなぜ死を選んだのか
鎌倉で出会った「先生」は、親友Kを裏切った過去を抱えていた。夏目漱石『こころ』のあらすじを上・中・下に分け、Kの死と先生の決意、作品の背景をやさしく解説します。
『こころ』(原題表記『こゝろ』)は夏目漱石の長編小説で、学生の「私」と、どこか影のある「先生」との交流を描き、後半は先生が若いころ親友Kを裏切り、自殺に追いやった過去を打ち明ける長い遺書になっています。 1914年(大正3年)4月20日から8月11日まで『朝日新聞』に「心 先生の遺書」として連載され、同年9月に岩波書店から漱石自身の装丁で刊行されました。
上「先生と私」のあらすじ
語り手は学生の「私」、時は明治の終わりです。夏休みに鎌倉の由比ヶ浜へ海水浴に来ていた「私」は、同じく来ていた「先生」と出会い、東京に帰ってからも先生の家に出入りするようになります。 先生は奥さんと静かに暮らしていて、毎月、雑司ヶ谷にある友達の墓に参っています。
先生は仕事に就かず、「私」に何度も謎めいた、教訓めいたことを言います。過去を打ち明けてほしいと迫る「私」に、先生は来るべきときに話すと約束しました。 先生がすでに故人であることは、上の早い段階で読者に明かされています。
中「両親と私」のあらすじ
大学を卒業した「私」は帰省しますが、腎臓病が重かった父はますます弱っていきます。 明治天皇の病気と崩御の知らせが届き、続いて乃木希典大将が天皇のあとを追って殉死したという知らせに、家族はみな心を揺さぶられます。 父の容態がいよいよ危なくなったところへ、先生から分厚い手紙が届きます。それが先生の遺書だと気づいた「私」は、死の淵にいる父をおいて、東京行きの汽車に飛び乗ります。
下「先生と遺書」のあらすじ
ここからは先生の手紙そのものです。先生は若くして両親を亡くし、財産の管理を任せた叔父に遺産をごまかされたことから、故郷と縁を切りました。 東京で大学に通うため、軍人の未亡人である「奥さん」とその娘「お嬢さん」の家に下宿し、お嬢さんにひかれていきます。 ところが叔父の一件で人を信じられなくなっていた先生は、なかなか結婚を申し込めません。
そこへ先生は、家族との不和に悩む同郷の友人Kを同じ下宿に誘います。これが大きな悲劇の始まりでした。 やがてKは、お嬢さんへの恋を先生に打ち明けます。先生は何も言えず、Kが大切にしてきた精進や道のために生きるという言葉を逆に突きつけ、Kには黙ったまま奥さんにお嬢さんとの結婚を申し込み、承諾を得ました。 婚約のことは奥さんからKに伝わりました。先生は翌朝Kと話そうと決めますが、その夜のうちにKは自ら命を絶ちます。残された手紙には、先生が恐れていた非難の言葉はありませんでした。
先生はお嬢さんと結婚しますが、Kのことを妻に話せないまま、世間から身を引いて生きてきました。明治が終わり乃木大将が殉死したとき、先生は自分も時代とともに去る決意をします。そして「私」に、妻には何も知らせないでほしいと頼んで、手紙を結びます。
主な登場人物
「私」は上と中の語り手で、田舎に両親を持つ学生です。父は腎臓の重い病気を患っています。 「先生」は仕事に就かず、東京で妻とひっそり暮らす人物で、故郷は新潟とされています。下では先生自身が「私」として自分の生き方を語ります。 先生の妻は名前を「静」といい、下の前半では「お嬢さん」として登場します。その母は戦没軍人の妻で、下の前半では「奥さん」と呼ばれています。 そしてKは、先生と同じ故郷から東京に出てきた友人です。
Kはなぜ死に、先生はなぜ死を選んだのか
先生は長い年月をかけて、Kの死は失恋のためというより、孤独と自分自身への失望によるものだったのではないかと考えるようになります。そしてそれは、先生自身を苦しめてきた孤独と同じものでした。 批評家の江藤淳は先生の死に、長年のエゴイズムの苦しみを終わらせたいという個人的な動機と、天皇への忠誠を示すという公的な動機の「二重の動機」を見ています。
漱石は乃木希典の殉死に影響を受けてこの作品を書きました。明治天皇の崩御と乃木大将の殉死に象徴される時代の変化のなかで、大正という新しい時代を生きるために、漱石は「先生」を「明治の精神」に殉死させたと説明されています。 前作『彼岸過迄』『行人』と同じく、人間の深いところにあるエゴイズムと倫理観との葛藤がテーマです。
なぜ『心』は三部構成になったのか
漱石はもともと、いくつもの短編を書き、それらを『心』という題でまとめるつもりでした。ところが第一話になるはずの「先生の遺書」が長くなりそうだったため、その一編だけを三部構成にして出版し、題名は『心』のままにしたと、単行本の序文に書いています。 新聞連載は全56回で、1回あたり1,500字前後で書かれていました。
日本でいちばん売れている小説
新潮文庫版は2016年の時点で718万部を発行し、同文庫でもっとも売れている本です。 初版は漱石の自費出版という形でしたが、岩波書店にとっては出版社として本格的に刊行した最初の小説になりました。 連載開始からちょうど100年後の2014年4月20日には、『朝日新聞』で再び連載が始まっています。
作者の夏目漱石(1867–1916)は、『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『三四郎』『それから』『明暗』などで知られる明治・大正の文豪で、1984年に発行が始まった千円札の肖像にもなりました。
この作品で学ぶ日本語表現
| 表現 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| 打ち明ける | 隠していたことを話す | 先生は手紙で過去を打ち明けた。 |
| 出し抜く | 相手のすきをついて先に行動する | 先生はKを出し抜いて結婚を申し込んだ。 |
| 良心がとがめる | 悪いことをしたと感じて苦しむ | 先生は良心がとがめて墓参りを続けた。 |
| 縁を切る | 関係を完全に断つ | 先生は叔父と縁を切った。 |
| 胸に秘める | 誰にも言わずに心にしまう | 先生は秘密を胸に秘めて生きた。 |
練習: 「打ち明ける」と「胸に秘める」を使って、先生の生き方を三文で説明してみましょう。最後に、先生は奥さんに話すべきだったと思うかを一文で書いてください。