『紅楼夢』のあらすじと結末は?「中国の源氏物語」と呼ばれる長編小説をやさしく解説

賈宝玉・林黛玉・薛宝釵の三人を軸に、名家の栄華と没落を描いた清代の長編小説『紅楼夢』。物語の始まりから結末、作者をめぐる謎までまとめました。

『紅楼夢』は、名家・賈家の貴公子である賈宝玉を主人公に、繊細でプライドの高い美少女・林黛玉と、良妻賢母型の薛宝釵との三角関係を軸に展開する物語です。 結末では、宝玉は科挙に合格したあと姿を消して出家し、最後はもとの「通霊宝玉」に戻ったと語られます。 清の乾隆帝の時代、18世紀中ごろに書かれた長編の白話(口語)小説で、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』と並ぶ「中国四大名著」の一つに数えられ、「中国の源氏物語」とも呼ばれています。

「武」でも「侠」でもなく「情」の文学

『紅楼夢』の特徴は、筋の面白さで読ませる物語というより、大貴族の家の若い男女の心の揺れが細やかに描かれている点にあります。『三国志演義』が「武」、『水滸伝』が「侠」の文学だとすれば、本作は「情」の文学だとされます。 その一方で、登場人物たちは儒教道徳や役人の腐敗を痛烈に批判しており、「乾隆盛世」と呼ばれた当時の社会への批判も込められています。

登場人物は400人を超え、当時の上流階級の暮らしが細部まで描かれているため、文化史の資料としても価値が高いとされます。 この作品を専門に研究する学問は「紅学」と呼ばれ、毛沢東も愛読者の一人でした。

物語の始まり:天から来た石

物語は不思議な枠組みから始まります。女神の女媧が天を補修したとき、一つだけ石が余りました。意思を持つこの石は人間の世界を味わってみたいと願い、道士と僧に頼んで人の世へ連れて行ってもらいます。 広く読まれている版では、この石が賈宝玉として生まれ変わります。そのため本作は『石頭記』とも呼ばれます。

宝玉は玉を口に含んで生まれた子で、勉学を嫌いますが、顔立ちが美しいため祖母に溺愛され、屋敷に暮らす美しい少女たちと風流な日々を送っていました。

宝玉・黛玉・宝釵

宝玉の父方の従妹である林黛玉は、母を亡くしたあと賈家に身を寄せます。趣味の合う二人は互いに思い合うようになりますが、気持ちをうまく伝えられずに悩みます。 神話の枠組みでは、前世の宝玉が水を注いで育てた仙草が黛玉で、彼女はその恩を涙で返すために人の世に生まれたとされています。

もう一人の従姉、薛宝釵は世慣れていて気配りのできる、当時の理想的な女性です。彼女の金の首飾りと宝玉の玉には、対になるような言葉が刻まれており、二人の結婚は運命づけられたものとして描かれます。

ある日、宝玉は夢の中で「太虚幻境」という天上の世界に迷い込み、『薄命司』という帳簿を見つけます。そこには少女たちにこれから起こる不幸が記されていましたが、宝玉はその意味を理解できないまま目を覚ましてしまいました。 物語の悲劇は、この時点ですでに予告されているのです。

結末はどうなるのか

前半の80回には、多くの予言や伏線がちりばめられています。黛玉がやがて亡くなること、宝玉と宝釵が結婚すること、そして宝玉が出家することは、読めばはっきりわかるように書かれています。 宝釵との結婚は、黛玉の死後も宝玉の思いが彼女から離れないため、結局うまくいきません。

流布している120回本の終わりでは、目覚めた宝玉が僧と語って出家を決意し、科挙の試験を受けたあとそのまま失踪します。実は合格していたことがあとでわかり、最終回では、宝玉が通霊宝玉に戻ったことが語られます。 石として始まった物語が、石に戻って終わるのです。

後半40回は誰が書いたのか

いま流通している前80回は、曹雪芹の原文だといわれています。 曹雪芹は1740年代に執筆を始め、1763年か1764年に亡くなるまで書き続けましたが、作品は未完でした。 1791年、高鶚と程偉元が40回を加えた120回本を初めて印刷し、これが最も広く読まれる版になりました。

学者の胡適は後半40回を高鶚の続作だと主張しましたが、現在は作者を「無名氏」とする見方に変わっています。 2014年には、文体を統計的に分析した研究で、前80回と後40回は別の書き手によるものだという強い証拠が示されました。 読者が知っている結末は、作者が思い描いた結末とは違うのかもしれない。それもまた、この作品の大きな魅力になっています。

赤い書き込みのある写本

曹雪芹の生前から出回っていた手書きの写本には、赤や黒の墨で正体のわからない読者の批評が書き込まれていました。その書き込みからは作者の人柄がうかがえ、中には曹雪芹の家族だった人もいたと考えられています。 最も有名な批評者は脂硯斎で、作品の構成や、いまは失われた本来の結末について多くを書き残しました。これらの写本は「脂本」と呼ばれ、本文として最も信頼できるものとされています。 失われた結末を、批評の書き込みと前半の伏線から復元しようとする研究分野まであるほどです。

現代中国語を形づくった小説

『紅楼夢』は文語ではなく口語で書かれ、会話には北京の言葉が使われています。この北京語は、のちに現代中国語の話し言葉の土台になりました。 20世紀初めには、辞書の編さん者がこの小説を使って新しい標準語の語彙を定めたといいます。 現代の中国には、この作品の名を冠した文学賞「紅楼夢賞」まであります。 中国語を学ぶ人にとって、『紅楼夢』は名作であると同時に、言葉そのものの成り立ちに触れられる一冊なのです。

『紅楼夢』で覚える日本語表現

表現 意味 例文
栄枯盛衰 栄えることと衰えること 賈家の栄枯盛衰が描かれている。
相思相愛 互いに思い合うこと 宝玉と黛玉は相思相愛だった。
伏線を張る 後の展開を前もってほのめかす 作者は序盤から伏線を張っている。
運命づけられる はじめから決まっている 二人の結婚は運命づけられていた。
はかない 長く続かず消えやすい 黛玉の恋ははかなく終わった。

練習問題: 好きな物語について、「伏線を張る」と「栄枯盛衰」を使って三文書いてみましょう。

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